お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “寒くても元気vv”
 


小さな久蔵くんは、
こちらのお宅の大人二人の目には、
少し小さめの五歳児くらいの男の子に見えており。
金色の軽やかな綿毛もふあふわと愛らしく、
白い額や頬は 淡雪みたいな繊細な印象で。
潤みの強い紅色の双眸が、
何かをじいと見やって 愛らしくぱちりぱちりと瞬くのは、
その夢中な相手に嫉妬したくなるほど可愛くて。
寸の足らない腕脚を
とてちて・ぱたぱたと振り回しつつ駆け回る姿の
何と、なんと……………

 「かわいいったら、
  もうもう もうもうっvv/////////」

 「判ったから落ち着きなさい、七郎次。」

やや堅物そうな作家先生と、その敏腕秘書殿という
男二人のお住まいに、
ひょこりと居候を始めて以降。
切れ者の秘書様として
その辣腕ぶりばかりが有名だった七郎次さんを、
惚れてまうやろvvと骨抜きにした“可愛い”の威力は絶大で。
それまでは、花も恥じらう美丈夫じゃああるが それでも
同時に…触れれば切れそな鋭さを秘めてもいらしたはずが、

 「ほら、お外は寒いから、
  今日はおウチであしょびましょうねぇ♪」

赤ちゃん言葉も飛び出すほどの溺愛ぶりなのが意外や意外と、
各雑誌社の担当の皆様を驚かせもして来たもので。
とはいえ それは、この坊やが
そんな皆さんの目には
小さな小さな
メインクーンという仔猫にしか見えぬからでもあろう。
大きめのお耳に、綿飴みたいなふわふかの毛はキャラメル色。
その胸元には
お洒落なドレスシャツのフリルみたいな毛並みを
ふんわりと盛り上げておいでの、
それは元気で何とも愛らしい仔猫さんを。
金髪碧眼、線の細い綺麗どころの美丈夫さんが、
蕩けそうなお顔になって甘やかす様子は、
何とも眼福なものだから。
まま、あんな可愛い仔じゃあねぇと、
クールビューティで売ってたお兄さんの変貌も、
仕方がないこととして納得されて、もうどれほどとなるものか。

 「…久蔵、いい加減に降りといで。」

おやや、今日はちょっぴり雲行きが違うような。
古い洋館なせいか、天井の高いリビングなのだが、
そんな天井に迫るほどという
大きな掃き出し窓の1つと向かい合い、
そんな声かけをする七郎次なのへ、

 「? いかがした?」

書斎からやって来た勘兵衛が怪訝そうに声を掛ける。
これまで不在だった御主の登場に、
ああと表情を弾かれた七郎次。
そこは優先順位をわきまえてだろう、
傍までやって来ようとしかかったものの、

 「みゅうにぃ。」

ちょっと強めの拗ねてるようなお声がし、
うううと後ろ髪引かれておいでなのが…
勘兵衛にはやや愉快だったりし。

 「何かあったのか?」
 「いえ、あのその。////////」

声がしたほうを見やれば、
腕白な仔猫さんが結構な高みにおいで。
開いたことで窓の片側にかき寄せられて
フリルのようになっているカーテンの上へ、
チョコンと座り込んでいる図は、
くどいようだが、彼らには坊やに見える相手なので、
坊やという姿で見ると、
なるほど気が気じゃあない危うさでもあって。

 “そうよのぅ。”

他の人には小さな仔猫に見えるので、
大人の身長以上という高さを思えば
まま危険かも知れぬチャレンジだが、
それでも“猫なんだから”という許容の範疇。
小さいそのうえ、身ごなしも軽かろうし爪もあるので、
ネコタワーで遊ぶのの代用のようなこととされ、
そうそう落ちる心配もなかろうにと流されておしまい、と

 「判ってますよ、過保護なのは。////////」

でもですね、今日はあの子も注意散漫ですしと、
ついついムキになって声を張る秘書殿で。

 “そういえば、”

いつもなら、わざわざ呼ばずともというノリで
七郎次のすぐ傍に まとわりつくよにくっついている久蔵だのに。

 「降りられないという風情でもないようだの。」
 「ええ。自分でわしわし登りましたし、いつも素早く降りて来ますよ。」

七郎次の言いようを聞くに、
やはりそうそう危ないと懸念することではないらしく。
並んで見上げておれば、
すぐ横から黒い毛玉がぴょこりとお顔を出したので、

 「おお、クロも登っておるのか。」
 「…はい。」

不思議ですよね、
クロちゃんのほうがずんと小さいのに、
あの子は大丈夫と思えてしまう。
だからそれは、

 「ええ、クロちゃんは仔猫に見えてるからで、
  いっそのこと、
  クロちゃんをこそ物差しにするべきなんでしょうが。」

カーテン登りも鬼ごっこも、一丁前な取っ組み合いも、
クロちゃんが大丈夫なことならOKと、
そう思えればいいのだけれど。

 「でもダメなんですよぉ。」

久蔵は久蔵、クロちゃんはクロちゃんですものと、
双方ともに愛しいとお思いのおっ母様。
一緒くたになんて出来ませんと、
それで他でもない誰が困っていることなやら、
胸を張ったりするので埒が明かぬのがまた、勘兵衛には面白いらしく。

 「〜〜〜。」
 「ええ、ええ、笑ってらっしゃいませ。」

大きな手で隠した口許は七郎次には見えないが、
頼もしい肩が震えておいでだもの判らいでかと、むむうと不貞る。

 「そも、何を揉めておる。」
 「いやあの、///////」

ミルクで口許を汚してたのを拭ってやったら痛かったようで、と。
何とも可愛らしいことで臍を曲げてる久蔵だと、
七郎次が暴露したそのときだ。

  ♪♪♪♪〜♪♪、と

テーブルに置いていたスマホがメールの着信を伝える。
おや誰だろかと、窓から離れる七郎次なのへ、

 「〜〜〜〜。」

おや、私との睨めっこは?というよなお顔になり、
背中を延ばして七郎次の去るほうを見やった小さな坊や。
怒ってるような振りをしつつ、
それでも構ってもらえていたのが去ると、
そこはやっぱり寂しいのだろう。
カーテンの上という難攻不落の砦にいたものが、
ちょっぴりオロオロするよに回りを見回し、
そんな傍らから、
クロちゃんがピョイッと降りてったものだから
もうもういけません。
一人であんなトコにいても面白くないとばかり、
そそくさと撤退するところが、まだまだ幼いもので。
怖くないものか、
自分の身長との対比を考えれば奈落の底のような
落差を物ともせず、頭を下にたったか降りてく強わもので。
床までを無事に降り立つと、
そのままトコトコとおっ母様の後追いをするのも素直なもの。
コタツを置いたのでと壁際に寄せられたテーブルの上へ、
それほど頻繁にかかってくるでなしと放置状態になってたスマホだが、
それを手に取った七郎次、
メールのアプリを開いて確かめていたものが、
その水色の双眸をおおと見開くと、

 「久蔵、遊びに行けるよ?」
 「にゃ?」

足音も低く、ちょこちょこと近づいてたの、
ちゃんと把握していたおっ母様。
ひょいっと小さな胴ごと抱え上げ、横抱きにするようにし、
そのまま勘兵衛の傍らまで足を急がせる。

 「勘兵衛様、頼母様からのメールです♪」
 「おお。」

毎年、年末から正月までを過ごしている温泉宿のご主人からで。
だがだが、今年のお正月は、

 『すまぬな、
  急な団体が入ってしかもそれが愛犬友の会とやら。
  どう部屋割りで遠ざけようと、
  わんこが大挙している中へでは、
  そちらのちびさんたちも落ち着けまい。』

向こう様からのそんなお知らせがあったため、
残念ながら遠慮したのだが、

 「雪も引いたので準備も万全。
  高速道路も再開したそうだというし、いつでも来られよですって。」

 「そうか、では良しなにな。」

こちらは、毎日を自由に裁量出来る身なものだから、
世間様の連休やバカンスとかぶらぬ日取りでの旅行も自在。
そこでと連絡があるのを待っていたようなものであり。
勘兵衛からのお言葉へ、はいなといい笑顔で返し。

 「久蔵、クロちゃん、大きなお風呂のお宿だよ?」

楽しみだねぇと微笑って見せて、
大人たちだけに事情が通じてた“ご褒美”が降って来た、
今年の猫の日となったのでありました。




  〜Fine〜  14.02.22.


  *毎年恒例の
   お正月のお泊まりがなかったのはそんな訳でございます。
   つか、このシリーズでの
   元旦の午前というシーンを書いてみたかったので、
   ちょっと日程を変えちゃおうと思ったまでだったのですが。
   よもや、こうまでの大雪に襲われようなんて思わなかったので、
   こうまで延びちゃったまででした、悪しからず。

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